一
#なんでも
母は私を虐めるのが好きな人だった。 小学校低学年の頃、母に前髪を切ってもらっていた。 長くなってきたから切ろうかなんて言葉で、その日も髪を切ることになった。 いつものように目を閉じて、シャキンシャキンというハサミの音を聴く。 そろそろ終わりかと思って声をかけようとしたその時。 グニッと右眉の下に冷たい金属が触れた。 尖った先端の形を瞼越しに感じて、硬直するなか思考をめぐらせた。 何かミスをしたか 長く感じた思考時間は本当は1分程度だろう。 その間母は今思えば途中笑いながらこちらの反応を伺っていたと思う。 当時の私は特に怒られることに心当たりが無く、目を潰されそうなことや相手の思考が読めないことにパニックになった。 両目を閉じたままポロポロと泣き始めた私を見て、母はようやくハサミを私の眉下から外した。 こんなことで泣くなんて、と言いながら大口を開けて母は笑う。 この世のものとは思えない程、醜悪な笑い顔だった。